- サイトカイン
- ヒトの体を構成する細胞では、様々なタンパク質を合成しています。それらのタンパク質の中には、細胞外へ放出されるものがあります。さらに、放出されるタンパク質で、他の細胞、あるいは産生放出した細胞自身へ、種々の作用を有するものがあります。ただし、その作用を受ける細胞には、そのタンパク質をキャッチする受容体を有する必要があります。以上のようなサイトカインと呼ばれるタンパク質の例として、インターフェロンがあります。実はそのインターフェロンに、ヒト細胞が有する遺伝子の異変発生を抑制する作用があることを発見しました。その発見により、ヒト個体におけるSOS応答理論が構築されることになったのです。
- インターフェロン
- ウイルスの増殖を抑制する作用を有するタンパク質として発見されたものが、インターフェロンと呼ばれる物質です。その抗ウイルス作用以外にも、細胞の増殖を抑制することが見出され、抗ガン剤としての利用もなされるようになりました。ところが、ガン細胞の発見の初期に引き起こされる遺伝子における変異の発生も抑制することを発見したのです。その発見により、ヒトSOS応答の理論がワイ構築されることとなりました。
- プロテアーゼ
- タンパク質を分解する反応を触媒する酵素をプロテアーゼと呼びます。すなわち生命活動を開始する方法の一つに、その活動開始に関与するタンパク質の構造を変化させることがあります。タンパク質の構造は、アミノ酸の結合により成立しています。そこで、その結合を解き離す化学反応としてプロテアーゼを必要としています。一方、化学反応にはエネルギーを必要とします。科学実験で火をつけて反応を起こさせていますが、その例です。調理におけるガスや電気による熱を利用することも良い例です。ところが生体では、炎の熱を利用することはできません。そこで触媒と呼ぶ方法を使うのです。タンパク質分解の作業では、アミノ酸の結合箇所に手を伸ばして結合を切る手助けをしてもらうのです。そのような手助けをすることを触媒と呼びます。以上のプロテアーゼが関わる反応を起点をする生命活動として、ヒトSOS応答の生理機能は考案されています。
- シャペロン
- 生命活動に必須であるタンパク質が働くためには、その構造を変化させる必要があります。また、働く場所へと運ばれる必要もあります。そのような変化や移動の手助けをするのが、シャペロンと呼ばれるものです。いわば介添え役です。ただしシャペロンもタンパク質です。したがって、単なる介添えという裏方の役割だけでなく、他の役割を有しているかもしれません。ヒトSOS応答研究では、細胞核内での遺伝子における情報を守るという役割があることを発見しております。
- ストレス
- 生命活動を促すものをストレッサー、促されている状態をストレスと呼びます。ストレッサーとしては、放射線や化学物質があります。ヒトSOS応答理論の始まりは、大腸菌おける対放射線応答に関する研究でした。その研究を参考として、ヒトにおける類似の反応システムがあるのではないかとの疑問からスタートしたのです。そこで、ヒトSOS応答研究ではストレッサーないしストレスを重視しています。例えば、被験者集団におけるそれらです。長年の研究から健康調査では一泊旅行中での実施することにしています。そうすることにより、余分なストレスからの値を最小限にして、おひとりおひとりの健康状態を推測できるのです。
- 酸化ストレス
- 物事を区別し分類する方法で、化学上、酸化、中性化および還元化という考えがあります。一方、生命科学上、ストレスが大きいとか小さいという考えがあります。そこでストレスをもたらす要因も加味し、酸化ストレスを呼ぶ場合があります。例えば、食物から体を動かすためのエネルギーを得る過程で、酸化ストレスが引き起こされています。したがって過重な体動は酸化ストレスを大きくします。するとその酸化ストレスにより、酸化と呼ぶ傷害が、体を構成するものに生じます。遺伝子に生じますと、異変を呼ぶ異常が生じます。そのような酸化ストレスを軽減化させること目的に、ヒトSOS応答理論を展開しているところです。
- アミラーゼ
- 食べ物を消化する際に、口の中で糖を分解する反応を触媒する酵素としてアミラーゼがあります。その触媒のレベル(活性値と呼びます)が、交感神経が強く作用する体では高くなり、反対に、副交感神経が強く作用すると低くなることが知られています。一方、ストレスが大きい時には、交感神経の作用が強くなります。小さい時には副交感神経の作用が強くなります。そこで口中の唾液に含まれるアミラーゼの触媒活性値を測定することにより、ストレスの大きさを推定できるという考えです。
- 活性酸素
- 酸化ストレスをもたらすものの一つに活性酸素があります。酸素と呼ばれるものの中には、酸化力が大きいものがあります。そのような酸素のことですが、通常、食物からエネルギーを得る際や体内に入った異物を処理するために、この酸素が産生されています。しかし、その産生量が過大となる場合があります。あるいは、体内に存在する活性酸素種ではない酸素が放射線に被曝するとこの酸素となります。なお、この酸素は、酸化ストレスレベルを高めることにもなりますので、体に障害をもたらすこととなります。そのような酸化ストレスから、ヒトの身体を守るために、ヒトSOS応答理論を活用し研究しているところです。
- B細胞・T細胞
- ヒトの健康体では、自分のものとそうでないものとを識別し、後者のものを排除する機能があります。その機能として、抗原・抗体反応と呼ばれるシステムがあります。すなわち、ウイルスや細菌のような身体外の遺物を抗原と呼び、その抗体に結合し退治する過程に関わるタンパク質を抗体と呼びます。そして抗体を産生する細胞がB細胞です。骨髄(bone marrow)由来であることから名づけられました。また、B細胞の働きを助ける細胞があり、T細胞です。胸腺(thymus)由来であることから名づけられています。ヒトSOS応答研究では、被検者の抹消静脈血より両細胞を採取し、解析しています。すると運動や放射線被曝など種々のストレッサーにより、即座に、両細胞における複数のプロテアーゼの活性レベルが上昇するのです。どうやら個体レベルにおけるSOS応答の初期段階と考えられます。このプロテアーゼ活性化により、様々なタンパク質の構造に変化が生じ、ついには遺伝子の情報発現も調整され得ると推測されます。
- CDマーカー
- 細胞が細胞外の物質と接触し、その物質に対応する機能を発揮するには、細胞表面に特有のものを標示する必要があります。その標識の一つにCD(cluster of differentiation)と呼ぶ分類されるものがあります。具体的には例えばCD4と呼ばれるものは、タンパク質と糖で構築され、細胞の膜を貫通しており、細胞の内と外にもその構造体は出ております。このCD4を有する細胞には、ヘルパー系列T細胞や単球、マクロファージ、あるいは樹状細胞などです。ヒトSOS応答研究ではCD4と他のT細胞CDマーカーを利用し、T細胞の存在を確認しているところです。B細胞の確認法についても、類似の作業をしているところです。
- 分子生物学
- ヒトSOS応答研究では水の存在を重視しています。毎日ヒトが飲用している水や排泄している尿の水という溶液についてのみならず、分子という視点からも考察しています。水素と呼ぶ原子と酸素と呼ぶ原子の結合体である理由は何であるのか、その結合は水溶液の状態によりどのような影響を生体に与えるのか等々です。このように、分子という視点や立場から生命の謎を解こうとする学問が分子生物学です。
- K-ras
- 通常の細胞が癌細胞へと変化する初期の過程で、種々の癌遺伝子と呼ぶものの変化があります。その癌遺伝子の一種にK-rasがあります。遺伝子の化学構造は、塩素、糖及びリン酸の結合体です。そして、塩基には4種類あります。その4種の塩基の配列方式に異常が生じる(例えば塩基が他の塩基へと置き換わる)と変異と呼ばれるような現象が起きます。すなわちK-rasに変異が生じることが、癌化の初期過程となります。ヒトSOS応答研究の成果には、ヒトインターフェロンによりK-ras異変の発生が抑えられるという発見があります。
- RSa細胞
- ヒト皮膚などから針の頭ぐらいの小さな切片を採取し、栄養液を入れた試験管に入れて培養しておくと、細胞が分裂し、2倍、4倍と増殖することができます。しかし数十回の分裂で増殖は停止します。したがって様々な実験に繰り返し同一の細胞を使うためには、そのような培養細胞を半永久的に分裂増殖できるように変換する必要があります。また過去に、細胞の癌化を試験管の中で再現しようと、癌化に関わると疑われたウイルスを細胞に感染させる実験が行われてきました。1960年代頃より、桑田次男千葉大学名誉教授らは、動物由来の癌化可能ウイルスと予測されるものをヒト胎児由来の培養細胞へ感染させました。ウイルスの保有している遺伝子がRNAであるRous sarcoma virusとDNAであるsimian virus40の両者を同時期混合感染させると効率よく癌化できるのではないかと考えての挑戦でした。癌細胞は得られませんでしたが、半永久的に増殖するとされる細胞は得られました。その細胞をRousaのRとsimianのSとをとり、RS細胞と名付けました。また2系統得られました。RSaとRSbと名付けました。そのうちのRSaは、K-ras変異を起こしやすく、ヒトSOS応答の研究に役立つこととなりました。その他、RS細胞は、ヒトインターフェロンによる増殖抑制作用を受けやすいなど、様々の特徴を有し、多くの研究に役立つこととなっています。
- CS細胞
- コケイン症候群(Cockayne Syndrome)と呼ぶ患者様の皮膚から得られる培養ヒト細胞です。増殖細胞を用いての実験に供する点では、紫外線による致死作用を受けやすいことが最大の特徴です。そこでヒトSOS応答研究では紫外線応答メカニズムを知る際に利用されています。
- メジウム
- 細胞を試験管の中で培養するための栄養液です。糖、アミノ酸、ビタミンなどの栄養成分と緩衝作用のためにも無機ミネラルなどを含ませてあります。その上で、PHを調整の上、培養用に供されます。なお、雑菌の増殖を防止するために、通常、抗生物質も含まさせています。
- 秋月辰一郎
- ヒトSOS応答研究の過程で味噌を扱っておりましたが、愛知県の八丁味噌屋さんへ訪問した際に、放射線被曝の際、味噌を食すると良いと提唱してきた医師がいるとの話を聞きました。その医師の名前です。長崎での被爆者を救うべく手紙をよこしてあったのです。何という奇遇でしょうか。ヒト細胞の癌化防止に味噌が効能ありと発見してきていることが、約半世紀前の一医師の思い入れの正しさを分子生物化学的に明らかにしたのです。奇しくも、2016年が生誕100年ということです(1916年生まれ、2005年没)。味噌に着目したのみならず、被爆医師として戦後の平和活動でも活躍なされたことに対しても畏敬の念を抱く次第です。
- AST
- アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartafe aminotransferase)という酵素名の略称です。アミノ酸のアミノ基を転移する反応を触媒します。ほぼ全ての臓器組織細胞に存在しますが、肝臓、心臓および筋肉に多くあります。したがって、臓器障害により細胞外へ放出されるので、血液中の存在量を測定により、障害の発生を知ることができます。なお、旧名は、GOT(glutamic oxaloacetic transamianase)です。
- ALT
- アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase)という酵素名の略称です。アミノ酸のアミノ基を転移する反応を触媒します。例えば、アミノ酸のアラニンを肝臓でピルピン酸へと変換し糖へ供給する代謝に関わっています。ほぼ全ての臓器組織細胞に存在しますが、特に肝臓に多くあります。したがって、肝障害の有無を判定する際に血液中の存在量を測定しています。旧名はGPT(glutamic-pyruvic transaminase)です。
- TTT
- チモール混濁試験(thymol turbidity test)の略称です。チモール試薬を血清中へ添加し混濁を測定します。肝疾患で高値を示します。血清中にIgMなどのタンパク質や脂質などがあると混濁の値が左右されます。
したがって、補助的検査として、ヒトSOS応答研究では利用します。
- マイクロRNA
- 種々存在するRNAの一種であり、microのmiをRNAに冠して、miRNAと記載されもします。一方、mRNAと記載されるものがあります。messengerのmを冠しています。ヒト細胞では、その核やミトコンドリアに存在するDNAの遺伝子情報を伝達する役割をしています。RNAの構造は、構成する塩基、糖、リン酸からなる一本の鎖です。他の一本の鎖と塩基どうしで結合し、二本鎖となることができます。20ほどの塩基鎖からなるマイクロRNAがmRNAと結合すると、遺伝子情報の伝達が阻害されることとなります。この阻害の現象を利用して遺伝子機能の解析などが行われています。ヒトSOS応答研究でも活用してきています。